保護猫カフェが潰れないために考えたこと

稲垣将治
獣医師
猫の問題を減らすために日々奮闘
2014年野良猫の不妊手術専門病院開業
2019年保護猫カフェさくら開業

こんにちは、獣医師の稲垣です。

現在、動物病院と保護猫カフェの運営をしています。

今回は「保護猫カフェの安全な運営を行うために考えたこと」をテーマにしてみます。

どうすれば簡単に潰れない保護猫カフェを運営できるのか?

開業する前から考えてきて、今も考えています。

これまで実践してきたことをお伝えしていきます。

目次

保護猫カフェを開業したい人は多いけど問題が…

相談者様

将来、保護猫カフェをやりたいと思っています!

と、保護猫カフェに憧れをもっている方も多いと思います。

素敵なスタッフさんが、かわいい猫のお世話をしていてキラキラしていますよね?

しかし実態は、お金と人間関係と猫の病気の問題が、ゲリラ豪雨のように毎日毎日通り過ぎていきます。

マイナス面からスタートしてしまうのも良くありませんが、現実をまずは知ってもらうところから始めましょう。

お金の問題

詳しくは別の記事でご紹介しますが、保護猫カフェの運営にはお金がかかります。

開業費はかなり抑えても500万〜600万円かかりました。

日々のメンテナンスなどでも使われる運転資金も余裕が必要です。

猫がたくさんいると、高いところにある備品を落とされて、色々なものが壊されます。(笑)

猫の毛が入ったり、おしっこをかけられたりすれば電化製品は故障し、クッションなどの買い替えが必要です。

運転資金も考えると、開業までに最低1000万円は準備した方がいいと思います。

人間関係の問題

人がたくさんいれば、人間関係も複雑になりがちです。

たくさんの人がいればいるほど、猫に対する考え方も様々です。

小さな衝突は毎日のようにあり、お互いの言い分を聞いて改善を目指しています。

現在、保護猫カフェ運営業務のほとんどは、人間関係を良好に維持するための業務と言ってもいいくらいです。

極端に言えば、保護猫カフェは人間関係でできていると思います。

猫を保護するのも、保護猫カフェで猫のお世話をするのも、猫の里親になるのもすべて人です。

たくさんの繋がりがなければ、保護猫活動はできません。

だからこそたくさんの時間をかけて、よりよい人間関係を築く必要があります。

保護猫カフェの方針をスタッフ全体が理解し、同じ方向を向いていないと施設の運営は上手くいきません。

バランスを保つことは大変ですが、たくさんの人が集まって組織として強くなっていくのは見応えがあります。

また、大勢で猫のお世話や接客をすることで、一人ひとりにかかる業務の負担を小さくすることができます。

猫の病気の問題

保護猫カフェは多頭飼育になるため、猫にとってのストレスが少なからずあります。

ストレスによる免疫低下化で感染症にかかり、猫たちの間で蔓延する恐れもあります。

感染症対策を普段からしっかりと行うことも大切ですが、感染症が発生した場合もなるべく早く対処しなくてはいけません。

施設内で蔓延しやすい病気は、感染症が原因と思われる胃腸炎(嘔吐や下痢)、猫風邪(目ヤニや鼻水)、皮膚真菌症です。

感染している猫が少ないうちに隔離して治療できればいいですが、発見が遅れるとすべての猫に治療が必要になります。

多頭飼育崩壊のリスク

保護猫カフェの運営が立ち行かなくなると多頭飼育崩壊します。

保護猫カフェが廃業して、猫が取り残されるような話は実際にあります。

保護猫のために始めた施設が、保護猫を不幸にしてしまうことがあります。

絶対に多頭飼育崩壊しないように計画をしてから開業しなくてはいけません。

多頭飼育崩壊についてご存知ない方は、下の記事をご覧ください。

保護猫カフェが潰れないために考えたこと

ここからが本題になります。

保護猫カフェが潰れないようにするためには、上記の問題を少しでも避けることができればいいと思います。

スタッフを雇わない

今運営している保護猫カフェで、雇用している人は1人もいません。

自分も含めた全員がボランティア参加です。

保護猫カフェは本当に利益の出にくい業態だと思います。

エサ代、猫砂代、光熱費、家賃など様々な固定費がかかるのに、平日の来客は閑散としています。

土日祝日も無制限にお客様を受け入れられるわけでなく、入場制限をすることも多いです。

待ち時間が長ければ、帰ってしまうお客様もいます。

天候にも左右され、新型コロナが原因で休業もしました。

売上ゼロでも毎日たっぷりの固定費がかかるのです。

僕が運営する保護猫カフェでは人件費はかかりませんが、一般的に経費の中で一番高いのは人件費です。

1人雇うにも膨大な経費がかかります。

開業から4年経つ現在でも、人件費を捻出するのは非常に難しい経営状況です。

保護猫カフェの営業だけで、人が普通に暮らせるほどの利益を出すのはとても難しいことです。

僕が運営する保護猫カフェは、誰の生活も支えていません。

スタッフさんがボランティアとして参加し、カフェの為に時間と労力を分けてくれることで運営が成り立っています。

ボランティアスタッフをたくさん集めて、運営することを開業前に決めました。

運営をひとりでしない

保護猫カフェの運営をひとりやふたりで続けることは、肉体的にも精神的にも負担が大きいと思います。

お世話は365日あるし、接客や猫の健康についても気を遣います。

5匹くらいの保護猫なら少人数でもなんとかなりますが、10匹の猫のお世話は重労働です。

僕の場合は、本業が獣医師なので、ずっと保護猫カフェにいることはできません。

開業前から誰かの助けが必要でした。

開業当初は獣医師が猫のお世話や接客をしていたこともあります。

現在は、猫のお世話や営業時間中の接客など、現場のことはスタッフさんにお任せしています。

全体の方針を決めたり、人事や人間関係に問題があればサポートをしています。

開業前から、なるべくたくさんの人の手を借りながら運営したいと考えていました。

猫を保護しない

相談者様

猫を保護しない保護猫カフェ?

と思った方もいるでしょう。

保護猫カフェによっては、その施設が猫を保護して譲渡まで行うこともあります。

しかし、保護する猫が増えすぎたり保護猫カフェの運営が立ち行かなくなると、多頭飼育崩壊する可能性があります。

施設が保護して抱える猫が多いほど、多頭飼育崩壊するリスクは高まります。

保護猫カフェの経営が手に負えなくて潰れてしまったとしても、獣医師として多頭飼育崩壊だけはしたくないと思いました。

そこで考えたのは、猫は保護しないで預かるという制度です。

たくさん猫を保護していて、譲渡活動に悪戦苦闘している猫ボランティアさんはたくさんいます。

そういった方の負担を減らす保護猫カフェがあってもいいと思いました。

保護猫カフェが猫を保護しないで、猫ボランティアさんから預かるメリットが3つあります。

保護猫カフェの多頭飼育崩壊を防げる

猫ボランティアさんの負担を減らせる

猫ボランティアさんから猫を預かるため、里親希望者様との面談や手続きはお任せできる

デメリットもあります。

預かりの期限がある

当保護猫カフェはシェルターではないため、1匹の猫を生涯に渡り預かることはしていません。

原則として1年半で里親希望者が見つからなければ、猫ボランティアさんの元へ猫を戻すことになります。

限られたスペースをなるべく多くの猫に提供するために、預かりの期限を設けています。

まとめ

10年続く会社は1割程度と言われています。

現在は保護猫カフェも多く新規開業していますが、廃業のリスクがあることを忘れてはいけません。

施設が廃業して、一番困るのは猫です。

行き場がなくなり、譲渡活動どころではなくなってしまいます。

実際に廃業した保護猫カフェでは、残された猫のために周囲の猫ボランティアさんが奔走しました。

また、保護猫カフェの最終的なゴールは、保護猫カフェがいらなくなることだと思います。

今はごく一部のボランティアさんの活動によって保護されることが多い猫ですが、

将来普通の人が当たり前に保護猫活動している状況になり、譲渡するための施設がいらなくなれば一番いいと思います。

夢がありそうな保護猫カフェですが、新規開業をする方に一番最初にお伝えしたいことはひとつです。

いつでも廃業できるような仕組みを作らなくてはいけない。

猫を助けることが目的の保護猫カフェが、猫や人に迷惑をかけることのないようにいつも頭のどこかに入れていただきたいと思います。

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