猫は繁殖力の強い動物です。
外で暮らすのら猫は、栄養状態が良ければ1年で最低2回は出産します。
メス猫の不妊手術では妊娠猫に出会ってしまうことも多いです。
「のら猫が妊娠しているかもしれないですが、どうしたらいいですか?」
「妊娠していても手術はできるのですか?」
そんな質問がよくあります。
妊娠猫の不妊手術と対応をどうすればいいか、考えていきたいと思います。
メス猫は1年のほとんどの期間で妊娠している可能性

栄養状態のいいメス猫は年に2回は妊娠します。
真冬に仔猫を産むことは少なく、1月頃から発情をはじめて4月頃が出産が一番多い季節です。
4月に出産した母猫は仔猫を育てて、夏頃に仔猫が離乳します。
驚くことに、母猫は仔猫が離乳したらすぐに発情します。
発情して妊娠し、秋の初め頃に2回目の出産をすることが多いです。
真冬に出産することはまれですが、それ以外の季節ではメス猫は妊娠している可能性があります。
つまり、1年のほとんどの期間で妊娠猫に出会ってしまう可能性があります。

通常、出産直後の母猫は仔猫に哺乳していると発情が来ないため、妊娠することはありません。
しかしまれに、出産直後から発情し、仔猫に哺乳しながら妊娠してしまう場合があります。
その場合は、年に3回以上の出産が可能になります。
堕胎手術か?産ませるか?
妊娠のピークである3月から4月は、メス猫の半分以上が妊娠しています。
猫が妊娠していたらどうすればいいのか悩んでしまう方もいます。
選択肢は不妊手術と一緒に堕胎するか、猫を保護して自宅で産ませるか、という二択になると思います。
あえて外で産ませてしまうと、母猫や仔猫がどこにいってしまうか分かりません。
その結果、猫が散らばって猫の問題が増えてしまうことになります。
だから、堕胎手術か自宅で生ませるかのどちらかを選ぶことになります。
9割以上の人が堕胎手術を選択
動物病院へ持ち込まれた場合は、基本的には堕胎手術となります。
だいたい99%くらいの方は堕胎手術を選びます。
なぜなら、産まれた仔猫を譲渡することはとても大変だからです。
猫が妊娠していた場合、稀ではありますが、麻酔から覚まして連れて帰ることを希望する方がいます。
しかし麻酔をかけられ、その上慣れない環境で出産・育児をすることは猫にとって大きなストレスになります。
結果として、うまく仔猫を育てられないことも多いようです。
もし自宅で出産させると決めているなら、麻酔をかけずにそのまま保護した方が安全です。



仔猫を堕胎してしまうのはかわいそうだというのは真っ当な意見です。
堕胎手術は猫にとっても、手術する獣医師にとっても負担の大きなものです。
しかし、かわいそうだからと外で産ませて、仔猫が次々と死んでしまっている現場がよくあります。
かわいそうだけでは解決できない問題があります。
時間と資金に余裕がある方だけが、自宅で保護して出産せることができると思います。
余裕がないのに自宅で出産させてしまい、数年で多頭飼育崩壊した家をたくさん見ました。
問題の根本をよく理解して、将来を見据えた保護活動をお願いします。
外で生まれた仔猫の7割が生後半年までに死亡


外の環境は仔猫にとって過酷です。
飢え、感染症、交通事故、カラスなどに襲われる危険と常にとなり合わせです。
そして仔猫はとても弱く、母猫が一生懸命お世話をしてもうまく母乳を飲めないこともあります。
母猫も生命力の強い仔猫を優先して育てるため、弱い仔猫を排除してしまうこともあります。
外で生まれた仔猫の実に7割程度が生後6ヶ月までに死んでしまうというデータがあります。
外で生まれても、多くが苦しみながら亡くなっていることになります。
堕胎手術は命を奪ってしまいますが、仔猫を苦しめることがなかったと考えることができます。
どのくらいの妊娠まで手術できるのか?
「かなりお腹が大きくなってきている様ですが、手術できますか?」
よく聞かれる質問です。
できれば妊娠前に手術したいし、妊娠していたとしてもなるべく小さいうちに手術したい、が獣医師の本音です。
しかし、生まれていなければ妊娠末期だとしても手術はできます。
妊娠の後期になると胎児が大きくなり子宮全体の血流量が増えます。
もちろん手術の傷が大きくなったり出血量が増えるため、手術のリスクは多少大きくなります。
また、生まれる5日前くらいになると子宮の中で胎児が動き始めます。
ため息の出る手術になるので、妊娠末期でも手術はできますがなるべく早めに手術しましょう。
生まれてしまったらどうするか?


妊娠末期の猫を保護して手術を待っていたら、自宅や動物病院で出産してしまった、ということも時々あります。
この場合、母親に育ててもらうか、仔猫を取り上げて人工哺乳するかになります。
母親に育ててもらう方がいい
結論から言うと、母猫に育ててもらった方がかなり楽です。
人工哺乳しようとすると、数時間おきに哺乳や排泄が必要になり、かなり大変です。
仔猫の世話をすべて任せられるのは大きなメリットです。
母猫に子育てをしてもらうデメリットは、ウイルスや寄生虫を母猫から仔猫に感染させてしまうリスクです。
胎児の時に感染しているものもありますが、子育て中に感染してしまうものもあります。
できれば出産前に母猫の感染症の検査をしておくと安心ですが、慣れていない猫の場合は難しいことも多いです。
母猫が子育てを放棄したら人工哺乳
子育てが上手な母猫は一日中仔猫をお世話しています。
反対にお世話が得意でなかったり、子育てを放棄してしまう母猫もいます。
その場合は人工哺乳に切り替えるしかありません。
数時間おきに排泄や哺乳が必要です。
体温調整が上手くできないため、温度管理も必要です。
また母親の初乳が飲めない場合は、初乳に含まれる免疫をもらえず免疫力が弱い時期ができてしまいます。
乳児猫の詳しいお世話の仕方については別の記事でご紹介します。