食欲がない猫への対処法、強制給餌のやり方

稲垣将治
獣医師
猫の問題を減らすために日々奮闘
2014年野良猫の不妊手術専門病院開業
2019年保護猫カフェさくら開業

猫は様々な原因で、食欲が落ちることがあります。

食欲がなくなると、体力がなくなります。

体力がなくなると、免疫力が下がったり、さらに食欲がなくなり悪循環を起こします。

猫の治療で大切なのは、できる限り工夫してなるべく早く食欲を回復してもらうことです。

今回は、猫の食欲を上げるための工夫や、強制的にフードを食べさせる方法(強制給餌)について説明します。

目次

猫の食欲が落ちる原因

猫はちょっとしたことでも食欲が落ちます。

猫の食欲が落ちる原因として、次の事が考えられます。

  • 環境が変わったことによるストレス
  • フードが変わった、フードに何かを混ぜた
  • 猫風邪でにおいが分からない
  • 口が痛い
  • 体調が悪い

環境が変わったことによるストレス

猫は環境の変化にとても弱い動物です。

例えば、新しく仔猫を保護しただけで、先住猫がおびえて食欲が落ちることがあります。

先住猫が体の大きな成猫で、仔猫が500gに満たなかったとしても、先住猫にとっては脅威の存在なのです。

また保護猫の譲渡で、環境が変わる時も食欲が落ちます。

新しい里親さんの家に猫を届けた後は、猫は大きなストレスを受けているため食欲が落ちるのです。

病気で入院すると、体調が悪い上に、環境の変化で大きなストレスがかかります。

体調が悪くて食欲がないのか、環境の変化で食欲がないのかを判断することは難しいです。

フードが変わった、フードに何かを混ぜた

いつも食べているフードが変わると、食べなくなることがあります。

慢性的な病気のため、療法食を与えなければいけない場合もあります。

しかし、猫はフードが変わると食べないことも多く、療法食を与えることに苦労します。

今まで通りのフードしか食べないようなら、一度フードを従来のものに戻した方がいいです。

いつも与えているフードに少しずつ新しいフードを混ぜていくと、上手く食べるようになることがあります。

また、フードに薬を入れて投薬することがあると、薬を警戒してフードを食べなくなることがあります。

薬はなるべくフードに混ぜないで、薬だけ単独で飲ませるか、ちゅーるちゅーるビッツ(いなばペットフード株式会社)などのおやつに混ぜて飲ませるようにしましょう。

猫風邪でにおいが分からない

猫はにおいでご飯を食べています。

鼻水が出て、食べ物のにおいが分からなくなると、食欲が落ちることがあります。

鼻水が出る代表的な原因として、猫風邪があります。

猫風邪は仔猫の食欲と体力を低下させ、命に関わることもある病気です。

猫風邪については、別の記事で説明しました。

口が痛い

猫は口の中のトラブルで食欲が落ちることがあります。

口内炎、歯肉炎、歯槽膿漏、舌炎などが原因です。

口が痛い場合、フードを食べる時に頭を振って痛がったり、ギャーと叫んだりすることがあります。

フードに近づいて食べたそうにするけれど、食べると痛いことを知っているため、フードから離れてしまうことがあります。

また、フードを食べていない時も、口の周りが汚れていたり、よだれを垂らしていることがあります。

口の中の炎症が強いため、よだれやウミが口から出てきて口の周りが汚れています。

口が痛い場合は、動物病院で原因を調べて治療する必要があります。

飲み薬で改善する場合もあれば、抜歯など手術が必要な場合もあります。

体調が悪い

猫の体調が悪くなる原因は様々なので、食欲が落ちる原因も色々あります。

感染症、胃腸炎、腫瘍、怪我、痛みなどあげればキリがありません。

しかしひとつ言えることは、猫は体調が悪いことを隠す動物です。

つまり、体調が悪くなっていても、表面上はわかりにくいです。

集団で狩りをする犬と比べて、単独のハンターである猫は敵に弱点を見せないため、と考えられています。

今までよりもちょっと食べるペースが遅くなった気がする時や、同じくらい食べているけどやせてきたと感じる場合は、早めに動物病院でみてもらいましょう。

食欲を増やす方法(フードを与える方法)

猫の食欲を上げるために、次のようなことができます。

  • フードを温める
  • おやつをふりかける
  • フードを今まで与えていたものに戻す
  • フードの種類を変える
  • 清潔なエサ皿や新鮮なフードを使う
  • エサ皿の形や種類を変える
  • 猫をほめながらスプーンで口に運ぶ
  • 静かな環境で与える
  • 環境に慣れるまで我慢する
  • 強制給餌する
  • 病院で原因を調べて治療する

フードを温める

猫は舌よりもにおいで味を感じます。

電子レンジなどでフードを人肌くらいに温めると、においが強くなって食べ始めることがあります。

容器の形によっては、温まり方に片寄りがでます。

やけどをしないように、フードをよくかき混ぜてから猫に与えましょう。

おやつをふりかける

こちらもにおいを出すための方法です。

無塩猫用のかつお節やちゅーるを少量フードにかけることで、食べ始めることがあります。

おやつがメインのフードにならないように、ごく少量加えてください。

フードを今まで与えていたものに戻す

フードを変更してから食べなくなった場合は、今までのフードに戻しましょう。

フード変更のやり方をかえる必要があります。

やり方は簡単です。

1ヶ月かけて、ほとんど差がわからないくらいの変化で、徐々にフードを変更していきます。

本当に少しの差に気がつく猫もいますので、変更が難しい場合もあります。

フードの種類を変える

ドライフードとウェットフードは両方とも試してみましょう。

保護される前に、どのようなフードを食べていたかわからないことも多いです。

プレミアムフードはあまり好きではないけど、安価なドライフードが大好きなこともあります。

あまり安すぎるフードはおすすめできないので、徐々に切り替えた方がいいと思います。

清潔なエサ皿や新鮮なフードを使う

猫はきれい好きで、汚れたエサ皿だと食べないことがあります。

時間が経ったフードは食べないけど、新しく出したフードは食べるということもあります。

常にエサ皿を清潔にして、新鮮なフードを与えましょう。

エサ皿の種類や形を変える

エサ皿の口が狭いと、ヒゲが皿に当たって食べにくいと感じる猫がいます。

また、プラスチックのエサ皿はにおいが残りやすかったり、油汚れが残りやすいことがあります。

猫の口があたる部分が広いもの、陶器やステンレス製のエサ皿も試してみましょう。

猫をほめながらスプーンで口へ運ぶ

おいしいよ〜、食べてえらいね〜、などとほめながらフードを口に運ぶと、食べることがあります。

食べると友人が喜んでくれる、という感覚かもしれません。

犬と違ってボスという認識はありませんので、いい友人になってほめちぎりましょう。

静かな環境で与える

保護したばかりの猫の場合、誰かが見ていると食べないことも多いです。

なるべく静かな環境にケージをおいて、バスタオルやシーツなどをかけてケージ内を暗くします。

フードを与えてからも、のぞき込んだりしないようにしましょう。

長い間保護していても、食べているところをなかなか見せない猫もいます。

緊張している証拠なので、少しずつ距離をつめる必要があります。

環境に慣れるまで我慢する

猫は環境が変わることで、強いストレスを感じます。

外から猫を保護したばかりの時や、里親へ譲渡したばかりの時は、ストレスで食べなくなることが多いです。

動物病院に行くことで大きなストレスを感じて、数日食べなくなることもあります。

成猫なら3日程度食べなくても問題ありません。

環境に慣れるまで、上記の方法をいろいろ試しながら、食べ始めるまで待ちましょう。

強制給餌する

食べないことで、状態がどんどん悪化してしまう可能性がある場合は、なるべく早く食べさせ始めます。

やり方については後述します。

病院で原因を調べて治療する

一時的に体調が悪くて食べない場合は、数日で食べ始めます。

しかし、3日間以上も食欲の低下が続く場合は、動物病院でしっかりと検査をしましょう。

特に猫は、体調が悪いことを隠す動物です。

気づかない間に、体重がかなり減っていることもあります。

定期的に体重を測るだけでも、猫の体調管理に役立つのでオススメです。

どのくらい様子をみていいのか?

相談者様

ごはんを食べなくなって、どのくらい様子を見てもいいでしょうか?

このような質問はよくあります。

猫の週齢や健康状態にもよるので、一言では言えません。

生後1ヶ月以内の乳児猫なら、数時間で体力が低下して命を落とす可能性があります。

生後1〜6ヶ月齢程度の仔猫なら、まる1日なにも食べないと体力が落ちます。

それ以上の大きさなら、2日以上食べなくても大丈夫です。

成猫なら3日間ほどまったく食べられなくても、命に関わることはありません。

しかし肥満猫の場合、3日間以上まったく食べないと、肝リピドーシスになる可能性があるので注意が必要です。

強制給餌のやり方

次に強制給餌のやり方について説明します。

強制給餌は、特に生後1ヶ月齢以上の仔猫を保護した時に大切です。

仔猫は数日食べられないと命に関わることがあります。

強制給餌は、を使うか、シリンジを使ってできます。

指でフードを食べさせると、指を噛まれてしまうことがあるためオススメできません。

今回は、シリンジを使った強制給餌のやり方を説明します。

シリンジで強制給餌するために使うのは、3mlくらいのシリンジ(注射筒)と流動食です。

シリンジはあまり大きいものを使うと、口に入りにくいため、3mlくらいの小さいものが使いやすいです。

流動食は、カロリーエースプラス(デビフ)、a/d缶(ヒルズ)、退院サポート(ロイヤルカナン)などが使いやすいと思います。

しかし、流動食は基本的に高価な商品が多いです。

もし代用するなら、仔猫用のウェットフードに少し水を加えて、ミキサーで1分以上よく混ぜます。

少しでも塊りがあると、シリンジの先を通らないため、しつこく細かく砕く必要があります。

では、やり方を説明していきます。

まだ人に慣れていなくて暴れてしまう猫の場合は、洗濯ネットに入れた方が安全です。

1人は猫が動かないように、首の下から胴体にかけて両手で押さえます。

1人は強制給餌をするために、猫の頭をわしづかみにします。

アゴの下までしっかりと包み込むようにつかみましょう。

後ろから見るとこんな感じです。

猫の後頭部を押さえています。

左右のアゴの下と後頭部の3点で固定されているため、猫は首を動かすことができません。

猫が首を振ってしまうようだと、かまれてケガをする可能性があります。

その場合はやり直して、しっかり固定できるまで練習しましょう。

3点を固定した状態から、後頭部を支点にして頭を垂直に持ち上げます。

顔をしっかりと垂直に持ち上げると、猫の口が少し開きます。

その少し開いた口のすき間にシリンジの先を入れます。

シリンジの先を少し入れると、口が大きく開きます。

すかさず舌の上に流動食を落とします。

シリンジを抜くと口が閉じて、舌の上に乗った流動食は飲み込まれます。

後ろから見るとこんな感じです。

横から見るとこんな感じです。

これを何度も繰り返していきます。

何度もやっているうちに、最初は抵抗していた猫が飲み込みが上手になってくることが多いです。

お餅つきのように、息が合ってくるのと似ています。

強制給餌で気をつけること

食欲の低下が続いている猫は、胃腸の動きが悪くなっていることがあります。

胃腸の動きが悪いと、食べ物が胃に入ってきても消化しきれず、吐き戻しをすることがあります。

その場合は、胃腸が動き始めるまで、ゆっくり少しずつ食べさせる必要があります。

最初はシリンジ1本分か2本分を与えて、吐き戻しがないか確認しましょう。

2時間ほど様子を見て、吐き戻しがなければ少しずつ与える量を増やしていきます。

少量しか強制給餌していないのに、それでも吐き戻してしまう場合は、他に原因があるかもしれません。

なるべく早く動物病院で検査をしましょう。

強制給餌を続けることで胃腸の動きが良くなり、たくさん強制給餌しても吐き戻しをしなくなります。

また、胃腸の動きが良くなることで、食欲が出てきます。

エサ皿に少量のフードを入れておいて、自力で食べるか確認しましょう。

自力で食べ始めたとしても、量が十分ではない場合は強制給餌を続ける必要があります。

リフィーディング症候群

慢性的な栄養不足が続くと飢餓状態になります。

飢餓状態では体内のエネルギーの使い方が変わります。

そこへ大量の栄養が体内に入ってくると、溶血や不整脈が起こることがあります。

リフィーディング症候群と呼ばれ、命に関わることがあります。

飢餓状態の猫を保護して、リフィーディング症候群を防ぐために必要なことは、ゆっくりじっくり食べさせることです。

仔猫の場合、1回の給餌がシリンジ1本分だけから始めます。

脱水があれば、皮下点滴も必要です。

1回目の給餌から2時間くらい待って、変化がなければ次の給餌をします。

2回目はシリンジ2本分に増やしてもいいです。

短期間で食べさせる量を増やすのではなく、1週間以上かけて状態を改善させます。

強制給餌の後は毎回数時間様子をよく観察して、状態が悪化していないか確認します。

数時間前よりも状態が悪化していれば、血液検査等を受ける必要があります。

このサイクルを繰り返し、少しずつ食べさせる量を増やしていくと、リフィーディング症候群を防ぐことができます。

まとめ

今回は、食欲がない猫への対処方法について説明しました。

まずはご紹介した方法を、色々と試してみて下さい。

仔猫の場合は、全く食べない時間が長いと体力が落ちるため、早めに強制給餌を開始した方がよい場合があると知っておきましょう。

飢餓状態の猫を保護した時は、リフィーディング症候群にならないよう注意が必要です。

今回の記事が、食欲のない猫の手助けとなれば幸いです。

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