手術と同時のワクチン接種と寄生虫駆除は有効です

稲垣将治
獣医師
猫の問題を減らすために日々奮闘
2014年野良猫の不妊手術専門病院開業
2019年保護猫カフェさくら開業

のら猫はあまり人に慣れていないことが多く、何度も動物病院へ連れて行くことが難しいと思います。

不妊手術する時が、最初で最後の医療になる猫がほとんどです。

一度きりのチャンスを、より良いものにする必要があります。

のら猫の不妊手術時にワクチン接種や寄生虫駆除をすることがあります。

今回は、不妊手術と同時のワクチン接種と寄生虫駆除の有効性について説明します。

動物病院によってやり方が違いますので、確認をしてください。

目次

日本では3種混合ワクチンが主流

米国にはThe American Association of Feline Practitioners (AAFP)という団体があり、猫に関する様々なことを決めています。

AAPFは、のら猫の不妊手術時のワクチン接種を推奨しています。

推奨するワクチンの種類は次の4つです。

狂犬病ウイルス:米国にいるが、日本にはいない

パルボウイルス:日本にもいて、重大な腸炎を引き起こす

ヘルペスウイルス:猫かぜの原因

カリシウイルス:猫かぜの原因

狂犬病ウイルスは日本にない

現在、狂犬病ウイルスは日本に存在しないので、日本では必要ないと考えられています。

しかし、狂犬病ウイルスは猫にも感染します。

日本で狂犬病が発生すれば、猫にも必要なワクチンになるかもしれません。

パルボウイルスの予防は重要

パルボウイルスは特に重要です。

ウイルスに対する免疫をもっていない猫は、嘔吐や下痢など重大な腸炎を引き起こして、死んでしまうことがあります。

毎年、複数のシェルターで確認され、犠牲になる猫がいます。

外にいる猫でも、感染していると考えられます。

しかし、このウイルスはワクチン接種が有効だとわかっています。

一度のワクチン接種でも、予防効果がかなり高いと考えられています。

ヘルペスとカリシは猫風邪の原因

ヘルペスウイルスとカリシウイルスは、いわゆる猫かぜのウイルスです。

ワクチン接種をすることで、感染を起こしにくくしたり、症状を軽減させることができます。

しかし、完全に予防できるウイルスではありません。

日本では3種混合ワクチンを接種しましょう

日本では、パルボ、ヘルペス、カリシを一度に予防できる、3種混合ワクチンがよく使われています。

3種混合ワクチンを接種することで、重大な腸炎と猫かぜを予防することができます。

一度の接種で命を救ってくれるかもしれないワクチン。

せっかく手術しても、感染症で体調を崩すのは残念なことです。

予防できる病気から猫を守るために、のら猫にもワクチン接種は大切だと考えています。

のら猫はウイルスに対する免疫が低いかも

米国の研究では、ワクチン接種する前の、のら猫のウイルスに対する免疫力(抗体価)が調べられました。

猫が免疫を持っていた割合は次の通りです。

狂犬病ウイルス3%

パルボウイルス33%

ヘルペスウイルス21%

カリシウイルス64%

数字があらわすように、のら猫は一般的なウイルスに対する免疫力が低いと言えます。

不妊手術の時にワクチン接種をすることで、すべてのウイルスに対して免疫力を上げることができたそうです。

ワクチン接種することで、猫の免疫力を高めることができます。

生ワクチンの方がいい

ワクチンには、生ワクチンと不活化ワクチンがあります。

生ワクチンの方が1回の接種で免疫を高める効果が高いです。

不活化ワクチンは最低2回接種することで、免疫を高めることができます。

つまり、1回だけしか医療ができない猫にとっては、生ワクチンの方が有効とされています。

副作用の確率は低い

ワクチンの副作用は心配されることだと思います。

論文によると、猫にワクチン接種をした場合に副作用が出る確率は0.52%だそうです。

症状は元気食欲低下や発熱がみられることがあります。

日本では、猫の3種混合ワクチンは複数販売されています。

手術の次の日には外に放してしまうため、なるべく副作用の少ないワクチンが望ましいです。

猫用ビルバゲンCRP(ビルバック社)、フェロセルCVR(ゾエティス社)が、TNR病院でよく使われていると思います。

他のワクチンは推奨されていない

白血病ウイルスと猫免疫不全ウイルスのワクチンもありますが、こちらは推奨されていません。

それぞれの理由は、以下の通りです。

白血病ウイルスのワクチンは不活化ワクチンであるため、1回の接種では効果は限定的であること。

猫免疫不全ウイルス(エイズウイルス)のワクチンは予防効果が低く、また接種した猫の血液検査をすると偽陽性反応がでてしまうこと。

これらの原因によって、この2つのワクチンは存在しますが、TNR時の処置としては推奨されていません。

寄生虫の駆虫もおすすめ

寄生虫は一度だけ駆除しても、また寄生してしまう可能性はあります。

しかし、手術と一緒に駆除しておくことで、術後の猫のストレスや体力低下を減らせる可能性があります。

特に仔猫では寄生虫の駆除も同時にした方が安全です。

体力が少なく免疫力の低い仔猫は、寄生虫によるダメージを受けやすいためです。

ノミに血を吸われすぎて貧血を起こしたり、消化管の寄生虫で下痢や嘔吐を起こすことがあります。

手術の時に駆虫することで、より安全に術後の様子を見ることができます。

成猫は免疫力が高いため、一度駆除することで消化管の寄生虫(回虫や条虫)の影響を受けることは少なくなり、次は寄生しにくくります。

のら猫に医療をかけることができるのはほとんどの場合一度きりです。

ノミ、回虫、条虫、耳ダニなどの頻度の高い寄生虫は駆虫してあげることをおすすめします。

駆虫薬の効果は約1ヶ月ほどですので効果がきれる頃にまたノミなどが付くことがあります。

耳ダニは近くで過ごす猫同士が感染します。

近くにいる猫の駆虫をすれば、再び感染することはなくなります。

まとめ

のら猫の不妊手術(TNR)は、医療処置ができる一度きりのチャンスです。

不妊手術と一緒にワクチンと寄生虫駆除が可能です。

優先順位としてはワクチン接種をおすすめします。

一度のワクチン接種で、長期的に免疫力を高くすることが証明されています。

できれば寄生虫駆除もしてあげましょう。

外で暮らす猫にもより良い医療を提供することで、猫同士の感染を減らすことができます。

目次